山と道を着る人は、なぜ山へ行くのか。
土曜日の朝。
都内のカフェでコーヒーを飲んでいると、山と道のバックパックを背負った人を見かけることがある。
不思議なのは、その人が今から山へ行くようには見えないことだ。
駅へ向かうだけかもしれないし、近所を散歩しているだけかもしれない。
それでも山と道は、その人によく似合っている。
登山用品なのに街に馴染む。
街着なのに山でも使える。
そんなブランドは意外と多くない。
なぜ山と道は、ここまで支持されるのだろう。
ULハイキングという思想
山と道を語るうえで欠かせないのが「UL(ウルトラライト)」という考え方だ。
荷物を軽くする。
それだけ聞くと単純に思える。
しかし本質は、ただ軽量化することではない。
必要なものだけを持つ。
不要なものは持たない。
その結果として、身体も気持ちも軽くなる。
山と道が作っているのは、バックパックやパンツではなく、この思想そのものなのかもしれない。
モノよりも体験を売るブランド
山と道の直営店へ行くと少し驚く。
商品の説明はある。けれど、それ以上に山の話がある。
どこの山へ行ったのか。
どんな景色だったのか。
何を感じたのか。
ブランドの中心にあるのは商品ではなく体験だ。
だから山と道のウェブサイトには読み物が多い。
だから山と道のユーザーは、ただの顧客ではなく仲間のように見える。
買い物をするとき、人は商品を選んでいるようでいて、本当は価値観を選んでいる。
山と道は、その価値観が非常に明確なブランドだ。
街で着る理由
実際のところ、山と道を買った人が毎週登山へ行くわけではない。
街で着る人も多い。
それは機能性だけの話ではないと思う。
速乾性がある。
軽い。
動きやすい。
もちろんそれも理由だ。
けれど本当は、「いつでも自然へ行ける気がする」からではないだろうか。
仕事帰りにそのまま山へ行けそうな気がする。
休日にふらっと電車へ乗りたくなる。
そんな余裕を服が持っている。
山と道が人気なのは、アウトドアブランドだからではない。
山のある暮らしを想像させてくれるからだ。
軽くしたいのは荷物だけじゃない
登山道を歩いていると気づくことがある。
人は意外と多くのものを抱えて生きている。
仕事。
人間関係。
将来への不安。
荷物を軽くするというULの思想は、もしかすると人生にも少し似ている。
本当に必要なものだけを残す。
余計なものを手放す。
山と道の製品に惹かれる人が多いのは、その考え方に共感しているからなのかもしれない。
バックパックを背負うためではなく。
少しだけ身軽になるために。
今日も誰かが山と道を着て、街を歩いている。