家を集める。
そう聞くと、少し不思議に思う。
家は、集めるものではない。
住むものだ。
帰るものだ。
誰かの生活がある場所だ。
でも、目黒区美術館で開催された高浜利也の展覧会「目黒でいえあつめ」を見ていると、そんな当たり前の感覚が少しずつ変わっていく。

木っ端でつくられた、小さな家。
ひとつ、またひとつ。
それらが集まって、いつの間にかひとつの「まち」になっている。
小さな家を眺めているだけなのに、気づけば自分が暮らしている街のことを考えていた。
家を集めて、街をつくる
「高浜利也 目黒でいえあつめ」は、銅版画家・高浜利也による展覧会。
高浜は2006年の「越後妻有アートトリエンナーレ」をきっかけに、「いえあつめ」という活動を続けてきた。
その土地で集めた木っ端。
旅先で出会った木のかけら。
そして、そこに暮らす人たち。
それらを使って、みんなで小さな「いえ」をつくり、それを集めて「まち」にしていく。
今回の展覧会では、そうして生まれてきた「いえ」と、これまで制作されてきた銅版画が目黒区美術館に並んだ。
ただ作品を鑑賞するだけの展覧会ではない。
来場者自身も、その「まち」の続きをつくることができる。
美術館の中に、ひとつの街ができていく
展覧会期間中には「いえあつめプロジェクト」も実施された。
会場に用意された木っ端の山から、好きなものを選ぶ。
色を塗る。
パーツをつなげる。
そして、自分だけの「いえ」をつくる。

完成した家は、会場の「まち」に加えられる。
つまり、この展覧会では、見る人とつくる人の境界が少し曖昧になる。
誰かがつくった家の隣に、自分がつくった家が並ぶ。
その隣には、別の誰かの家がある。
大きさも形も違う。
色も違う。
でも、集まるとひとつの街になる。
なんだか、実際の街とよく似ている。
目黒という街でやる意味
今回の展覧会で面白いのは、「いえあつめ」が目黒で行われていることだ。
目黒という街には、いろいろな時間が混ざっている。
昔から残る住宅街。
目黒川沿いの風景。
古い商店。
新しいマンション。
個性的なショップ。
大きな道路の向こう側には、静かな路地がある。
歩いているだけでも、街の表情が変わる。
そんな目黒で「家」を集める。
すると、普段は何気なく通り過ぎている建物や景色まで、少し違って見えてくる。
家は、単なる建築物ではない。
そこには誰かの生活がある。
そして、その家が集まったものが「街」なのだ。

小さな家には、それぞれ違う物語がある
会場に並ぶ家は、どれも少しずつ違う。
立派な家もあれば、
妙に小さな家もある。
カラフルな家もある。
どこか不思議な形をした家もある。
でも、どれが正解というわけでもない。
むしろ、違っていることが面白い。
現実の街だってそうだ。
新築の家の隣に古い家がある。
大きなマンションの向かいに、小さな商店がある。
同じ街に暮らしていても、家の形も生活も違う。
それでも、それらがひとつの風景をつくっている。
「いえあつめ」は、そんな当たり前のことを、小さな木の家を通して見せてくれる。
子どもと一緒に見ても面白い
美術館というと、静かに作品を見る場所だと思ってしまう。
でも、「いえあつめ」は少し違う。
自分で家をつくることができるからだ。
実際、関連イベントでは子どもから大人まで参加できるワークショップも開催された。
「ぺりぺり版画でいえあつめ」では、「いえ」をテーマに版画を制作。
一方、「銅版画でいえあつめ」では、高浜本人と対話しながら作品をつくるプログラムも行われた。
美術館に行って、
作品を見る。
つくる。
また見る。
そんなふうに、鑑賞するだけではない時間を過ごせるのも、この展覧会の魅力だった。
「家」を考えることは、「暮らし」を考えること
家という言葉は、意外と大きい。
建物のことを指すこともある。
家族のことを指すこともある。
帰る場所を指すこともある。
そして、街の最小単位でもある。
だから「家を集める」と、その先に「街」が見えてくる。
さらに街を見ていると、そこに暮らす人が見えてくる。
高浜利也の「いえあつめ」は、そんなふうに小さなものから大きなものへ、視点を行き来させてくれる。
一軒の家から、ひとつの街へ。
ひとつの街から、そこに暮らす人へ。
普段なら意識することのない「暮らし」を、少しだけ立ち止まって考える時間になる。
美術館を出て、目黒の街を歩く
展覧会を見終わったあと、目黒の街を歩いてみる。
すると、さっきまでとは少し景色が違って見える。
あの家には誰が住んでいるんだろう。
この建物はいつからあるんだろう。
この路地の先には、どんな暮らしがあるんだろう。
美術館の中で見た小さな家が、現実の街と重なっていく。
それが、この展覧会の一番面白いところだったのかもしれない。
美術館の中だけで完結しない。
外に出たあとも、街の見方が少し変わっている。
家を集めると、街が見えてくる。
家を集める。
そんな一見シンプルな行為から、街や暮らし、人とのつながりまで考える。
高浜利也の「目黒でいえあつめ」は、そんな不思議な展覧会だった。
美術に詳しくなくてもいい。
難しいことを考えなくてもいい。
小さな家を眺めて、
「この家、なんか好きだな」
と思う。
自分ならどんな家をつくるだろう、と考える。
それだけでも十分だ。
そして、美術館を出たら目黒の街を歩いてみる。
さっきまでただの建物だったものが、誰かの「いえ」に見えてくるかもしれない。
街は、いろいろな家の集合体だ。
そして、そのひとつひとつには、それぞれの暮らしがある。
家を集めると、街が見えてくる。
そんなことを、少しだけ考えさせてくれる展覧会だった。