市場が好きだ。
早起きした人だけが見られる景色がある。
運ばれていく魚。積み上がる野菜。忙しそうに働く人たち。
そこには無駄がない。
効率と実用でできた世界だ。
だからだろうか。
川崎市中央卸売市場北部市場の中に、こんな店があることが少し不思議だった。
調理室池田。
市場の関連棟の一角にある、小さな食堂であり、カフェであり、食の実験室のような場所だ。
市場の風景の中で、少しだけ異質な店
市場の建物を歩いていると、乾物屋や食品店が並んでいる。
その風景のなかに、突然現れる白い扉。
古い木枠のガラス戸。
市場の中とは思えない佇まいだ。
でも不思議と浮いていない。
むしろ、この場所に必要だった店のように見える。
市場で働く人たちもいる。
遠くからわざわざ訪れる人もいる。
その両方が自然に同じ空間にいる。

店名の通り、主役は「調理」
店に入ると真っ先に目が向くのは大きなオープンキッチンだ。
料理ができあがるまでの風景そのものが、この店の魅力になっている。
最近は料理を食べる前に写真を撮ることが増えた。
でもここでは、料理が生まれる過程を眺めたくなる。
店名が「調理室」なのも納得だった。

市場だからこそ生まれる説得力
調理室池田で使われる食材は、市場との距離が近い。
それは単に鮮度の話ではない。
料理を作る人と、食材を扱う人と、食べる人が、同じ場所にいる。
市場という場所が持つ力なのだと思う。
都会のカフェでは味わえない距離感がある。
効率の対極にある店
市場は効率の場所だ。
一方で調理室池田は、少し遠回りをする店に見える。
丁寧に作る。丁寧に焼く。丁寧に出す。
効率だけを考えれば、もっと違う方法もあるはずだ。
それでも、この店はそうしない。
だから人が集まる。
市場の中にありながら、市場の時間とは少し違う時間が流れている。
この店のために市場へ行く
普通なら、市場へ行ったついでに食事をする。
でも調理室池田は逆だ。
この店へ行くために市場へ行く。
市場で買い物をする。
コーヒーを飲む。
焼き菓子を買う。
少し市場を歩いて帰る。
そんな休日が成立してしまう。
市場の未来みたいな店
市場と聞くと、古くから続く仕事の場所を思い浮かべる。
調理室池田は、その市場に新しい風景を作っている。
働く人の場所でありながら、
訪れる人の目的地にもなっている。
魚や野菜だけではなく、
食文化そのものが集まる場所。
調理室池田は、市場の未来みたいな店だった。
