世界のワイン産地をめぐる旅。土地の記憶を飲む、ワインとカルチャーの話

ボルドー、トスカーナ、リオハ、ナパ、メンドーサ、シャンパーニュ。世界のワイン産地を、味だけではなく土地の風景や食、人々の暮らしから読み解く。ワインをきっかけに、まだ知らない世界へ旅をする。

世界のワイン産地をめぐる、少し遠回りな旅。

ワインのことを、どれくらい知っているだろう。

葡萄の品種。

産地。

ヴィンテージ。

そんな言葉を覚えていくのも楽しいけれど、MOZiとして気になるのは、そのもっと手前にあるものだ。

そのワインが生まれた場所は、どんなところなのか。

朝はどんな空気で、昼には何を食べて、夕方にはどんな景色になるのか。

ワインは、たぶん土地と切り離せない。

だから一本のボトルを開ける前に、その場所へ少しだけ旅をしてみたい。

BORDEAUX

古い街と、長い時間。

フランス南西部にあるボルドー。

ワインの名前としては、あまりにも有名だ。

でも、ボルドーという場所を想像するとき、葡萄畑だけを思い浮かべるのは少しもったいない。

川沿いに残る石造りの建物。

古い街並み。

少し郊外へ出れば、葡萄畑の中に佇むシャトー。

ここでは、時間の流れそのものがゆっくりしているように見える。

何十年、何百年と続いてきたワイン造り。

毎年、同じように葡萄を育て、仕込み、樽で寝かせる。

新しいものが次々と生まれる時代に、変わらないことを続けている。

それが、なんだかいい。

ボルドーのワインを飲む夜は、少しだけ時間をゆっくり使いたくなる。

TUSCANY

ワインは、昼食の続き。

イタリアのトスカーナ。

ここへ行くなら、ワイナリーだけを目的地にする必要はない。

フィレンツェを出て、車を走らせる。

丘の上に街があり、その周りを葡萄畑が囲んでいる。

オリーブの木。

糸杉。

古い農家。

そして、ところどころに小さなワイナリー。

昼になったら、その土地の料理を食べる。

パンがあって、チーズがあって、生ハムがある。

オリーブオイルをかける。

そこにワインがある。

たぶん、これくらいがちょうどいい。

ワインのために食事をするのではなく、

おいしい昼食を食べていたら、自然とワインを飲んでいた。

そんな距離感。

トスカーナの魅力は、ワインの味だけではなく、そんな暮らし方にあるのかもしれない。

RIOJA

一杯のワインは、会話のきっかけ。

スペイン北部のリオハ。

ここでは、ワインを難しく考えなくてもいい。

街へ出ればバルがある。

カウンターに座って、グラスを一杯。

料理をひとつ。

隣の店へ移動して、また一杯。

スペインの食文化を見ていると、食事というものが「食べるためだけの時間」ではないことに気づく。

誰かと話す。

笑う。

料理を分ける。

そして、ワインを飲む。

ワインは主役というより、その場をつなぐものなのだ。

日本でも、友人と食事をしているときに「もう一杯だけ」と頼む瞬間がある。

あの感じに少し似ている。

結局、旅先で記憶に残るのは、ワインそのものより、そのとき誰と何を話していたかだったりする。

NAPA VALLEY

ワインを飲むことまで、旅にする。

カリフォルニアのナパ・ヴァレー。

ここには、ヨーロッパの古いワイン産地とは違う魅力がある。

広い葡萄畑。

モダンなワイナリー。

デザインされた建築。

レストラン。

そして、車で巡るという自由さ。

ワインを「飲むもの」だけではなく、

一日を楽しむための体験にしてしまう。

それがナパらしい。

朝から車で出かける。

葡萄畑を眺める。

気になるワイナリーに立ち寄る。

ランチを食べる。

午後はまた別の場所へ。

夕方には、少しだけ酔いながらホテルへ戻る。

観光名所を急いで回る旅とは違う。

何もしない時間まで、旅の一部になる。

そういう休日があってもいい。

BAROSSA VALLEY

大地の強さを、そのまま飲む。

オーストラリア南部のバロッサ・ヴァレー。

乾いた大地。

強い日差し。

広い空。

そこに葡萄畑が広がっている。

代表的な品種はシラーズ。

果実味があり、力強いワインが多い。

この土地のワインを飲んでいると、なんとなく風景まで想像できる。

青々としたヨーロッパの葡萄畑とは少し違う。

もっと乾いていて、もっと大きい。

ワインには、土地の「味」だけではなく、土地の「温度」まで入っているのだと思う。

暑い場所で飲むワインと、

雪の降る場所で飲むワイン。

同じ葡萄から生まれたとしても、きっと感じ方は違う。

MENDOZA

山を見ながら、肉を焼く。

アルゼンチンのメンドーサ。

この土地を語るなら、アンデス山脈を抜きにはできない。

遠くに雪を抱いた山々。

そのふもとに広がる葡萄畑。

そして、アルゼンチンといえばアサード。

炭火でじっくり焼いた肉を囲みながら、マルベックを飲む。

もう、それだけで旅の理由として十分だと思う。

ワインには、料理が必要だ。

料理には、その土地の暮らしがある。

つまりワインを知ることは、その土地の食卓を知ることでもある。

高級なレストランで飲む一本もいい。

でも、旅先の庭で焼いた肉と一緒に飲む一本は、たぶん別の記憶になる。

MOSEL

川の向こうに、葡萄畑がある。

ドイツのモーゼル地方。

川に沿って、急斜面に葡萄畑が続いている。

その風景は、ちょっと不思議だ。

「どうしてこんな場所に葡萄畑をつくったんだろう」

そんなことを考えながら歩きたくなる。

モーゼルを代表する葡萄品種はリースリング。

繊細な香りと酸を持つワインが生まれる。

でも、ワインの知識がなくても、この土地は十分におもしろい。

川があって。

斜面があって。

小さな村があって。

その間に葡萄畑がある。

地図で見るとただの地名だった場所が、実際に歩くことで風景になる。

旅の面白さは、そこにある。

CHAMPAGNE

何でもない日を、少しだけ特別にする。

フランス北東部のシャンパーニュ。

シャンパーニュと聞くと、特別な日に飲むものというイメージがある。

誕生日。

結婚。

記念日。

何かを成し遂げた夜。

でも、考えてみれば、特別な日は誰かが決めてくれるものではない。

仕事が終わった金曜日。

久しぶりに友人と会う夜。

旅から帰ってきた日。

そんな日に一本開けてもいい。

グラスに泡が立つ。

少しだけ華やかな気分になる。

それだけで、その日が記憶に残る。

ワインには、そんな小さな魔法がある。

産地を知ると、ワインが少しおもしろくなる。

ボルドーでは、時間。

トスカーナでは、食卓。

リオハでは、会話。

ナパでは、旅。

バロッサでは、大地。

メンドーサでは、山と肉。

モーゼルでは、風景。

シャンパーニュでは、祝い。

こうして並べてみると、ワインは単なる飲み物ではない。

その土地で、どう暮らしているのか。

何を食べているのか。

誰と時間を過ごしているのか。

どんな景色を見ているのか。

そんなものが、少しずつ見えてくる。

だから、ワインを選ぶときに「おいしそう」だけで選んでもいい。

でも、もし少し余裕があるなら、ラベルに書かれた地名を調べてみる。

写真を見てみる。

その土地の料理を食べてみる。

そして、もう一度グラスに戻る。

きっと、さっきまでとは少し違って感じる。

次に飲む一本を、次の旅にする。

世界には、まだ知らないワイン産地がたくさんある。

知らない街。

知らない料理。

知らない葡萄。

知らない暮らし。

その全部を、一度に知る必要はない。

スーパーで一本のワインを選ぶ。

レストランで産地を聞いてみる。

休日に、その土地について少し調べる。

それだけでもいい。

一本のワインが、まだ行ったことのない場所への入口になる。

ワインを飲むことは、旅をすること。

そして旅をすることは、

知らなかった世界を、自分の記憶に変えていくこと。

次にグラスを傾けるときは、

そのワインが生まれた土地のことを、

ほんの少しだけ想像してみたい。

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