ピカソと聞くと、何を思い浮かべるだろう。
「キュビスム」
「ゲルニカ」
「難解な現代アート」。
あるいは、顔や身体をバラバラにして描いた、あの独特な絵。
20世紀を代表する芸術家であることは知っていても、どこか「美術史の中の人」という距離を感じている人も少なくないと思う。
そんなピカソを、少し違う角度から見せてくれる展覧会が、六本木の国立新美術館で開催されている。
「ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ」。
名前の通り、この展覧会にはもう一人の主役がいる。
英国人デザイナー、ポール・スミスだ。

ピカソ meets ポール・スミス
国立新美術館の企画展示室2E。

そこに入ると、いわゆる「美術館の展示」とは少し違う感覚に包まれる。
作品だけを整然と並べるのではなく、空間そのものに色があり、リズムがある。
それもそのはず。
今回、会場のレイアウトを考案したのはポール・スミス。

パリ国立ピカソ美術館が所蔵するピカソの作品からインスピレーションを得て、展示空間そのものをデザインしている。
2023年にパリで開催されたピカソ没後50周年記念展をもとにした国際巡回展で、日本では18年ぶりとなるパリ国立ピカソ美術館のコレクションが紹介される。
つまりこれは、単なる「ピカソ展」ではない。
ピカソを、ポール・スミスの目を通して見る展覧会。
そこが面白い。

「難しいピカソ」から、少し離れてみる
ピカソの作品を前にすると、
「これは何を意味しているんだろう」
と考えてしまう。
もちろん、それも美術鑑賞の楽しさのひとつだ。
でも今回の展示を歩いていると、少し違う気持ちになってくる。
「なんか、面白い。」
まずは、それでいいのかもしれない。
ピカソは、生涯を通してひとつのスタイルに留まらなかった。
青の時代からキュビスム、そして戦時中、晩年まで。
絵画だけでなく、陶芸や舞台芸術にも挑戦した。
「こう描かなければならない」というルールから、何度も飛び出していった人だった。
そう考えると、ポール・スミスがこの展覧会を手がけることにも納得できる。

ポール・スミスが見つけた「遊び心」
ポール・スミスの服には、クラシックな仕立ての中に、どこかユーモアがある。
一見するとベーシック。
でも、裏地や色、柄、ディテールを見ると少し驚かされる。
その感覚が、今回の展示にもある。
作品の時代やテーマを追いながらも、会場には色彩や遊びが散りばめられている。
まるで、
「もっと気楽にピカソを見ていいよ」
と言われているような感覚だ。

公式サイトでも、ポール・スミスが考案した会場は「色鮮やかさと楽しい驚き」に満ちていると紹介されている。
美術館なのに、少しファッションショップを歩いているような感覚もある。

作品を見る順番が、少し変わる
展示は、ピカソの初期から晩年までを、緩やかな時系列で追っていく構成。
「青の時代」から始まり、キュビスム、闘牛、戦時中、そして晩年へ。
代表的な作品だけを並べるのではなく、ピカソという一人の人間が、どう変化し続けたのかを感じられる。
特に面白いのは、
「この絵の次に、こんな作品を描いているのか」
という発見。
ピカソというと、完成された「ピカソらしい絵」を想像しがちだけれど、実際にはその「ピカソらしさ」そのものを何度も壊している。
新しいことを試して、また変える。
その繰り返し。
そこに、ピカソという人の面白さがある。
アートとファッションは、案外近い
今回の展覧会を見ていて感じるのは、アートとファッションの距離の近さだ。
洋服も、絵画も、
「こうでなければならない」
というルールがある。
でも、面白いものをつくる人は、そのルールを少しだけ疑ってみる。
色を変えてみる。
形を崩してみる。
組み合わせを変えてみる。
ピカソも、ポール・スミスも、やっていることは少し似ているのかもしれない。
違うのは、その表現方法だけ。
だからこそ、ポール・スミスがピカソの展示空間をつくるという組み合わせが面白い。
絵を見るために、服のデザイナーの視点を借りる。
それだけで、見慣れたピカソが少し違って見えてくる。

「わからない」を楽しむ
美術館に行くと、
「ちゃんと理解しなければ」
と思ってしまう。
作品の背景を調べて、作者の意図を知って、時代背景まで理解する。
もちろん、それも面白い。
でも、今回のピカソ展では、もう少し肩の力を抜いてもいいと思う。
「この色、好きだな。」
「この形、変なのに気になる。」
「この絵はよくわからないけど、なんか好き。」
それで十分。
むしろ、そうやって自分の感覚で作品を見ていくことで、ピカソの「遊び心」が少しわかってくる。

六本木で、ピカソと遊ぶ
「ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ」は、9月21日まで。
開館時間は10時から18時。
金曜・土曜は20時まで開館している。休館日は火曜日だが、8月11日(火・祝)は開館し、翌8月12日(水)が休館となる。
一般の当日券は2,400円。
中学生以下は無料となっている。
六本木という街も、この展覧会との相性がいい。
美術館を出たあと、街を歩いて、コーヒーを飲んで、洋服を見る。
そんな一日の途中に、この展覧会を入れてみるのもいい。
ピカソは、難しくない。
今回の展覧会を見終えて、そんなことを思った。
もちろん、ピカソの作品をすべて理解できるわけではない。
でも、理解する必要もないのかもしれない。

100年以上前に描かれた作品を見て、
「面白い」
と思える。
それだけで、十分に時間を超えている。
そして、その「面白い」を引き出してくれるのが、ポール・スミスの存在だ。
ピカソの作品を見る。
その作品が置かれている空間を見る。
色を見る。
そして、また作品を見る。
気がつけば、最初より少しだけピカソが身近になっている。

アートは、わからなくてもいい。
まずは遊んでみればいい。
この展覧会のタイトルにある「遊び心」という言葉は、そんなピカソの姿勢そのものなのかもしれない。